思案の敗北
君、たのむ、死んではならぬ。自ら称して、盲目的愛情。君が死ねば、君の空席が、いつまでも私の傍に在るだろう。君が生前、腰かけたままにやわらかく窪みを持ったクッションが、いつまでも、私の傍に残るだろう。/太宰治「思案の敗北」
「急だけど、結婚することにした。」
と、あの人が言ったところで目が覚めた。
あの人に彼女ができたと聞いた時、その彼女とはじめて旅行に行くと聞いた時、その彼女の好きなところ、を熱弁された時、その瞬間がすべてフラッシュバックしたあとに、思案の敗北の一節が頭に浮かんだ。
喪失感、という言葉とともに。
なぜ、私はいつもこうなんだろうか。
好きになった人には、いつも大事な人がいるのだ。悲しくて、涙があふれる。
このまま、あなたが結婚してしまったら
あなたは一番近くにいるのに、2度と手の届かない存在になってしまうだろう。
おとなしく、おめでとうなんて、絶対に言えない。
あの人は完璧ではない。
何度も嫌いになった。それでも、優しくされたことや理由は分からないけれどいとしさが、嫌いを上回ってきた。
思案の敗北。