人知を超えた何か
小さい頃、田舎に住んでいる時、
深い森や零れるような星空や、そびえ立つ山や風の音、広い広い空が、好きであると同時にこわくもあった。
べつに自然災害に見舞われたわけではないのだけれど、森は飲み込まれそう、森の奥深くには、恐ろしい何かが住んでいそうで、びっしりと詰まった星空は、広くてずっとみているとその中に落ちていくような感じがした。
変な話である。
星空の中に落ちるはずはないし、民家の近い森に恐ろしい獣なんかいない。それなのに、私はいま宇宙に剥き出しの更地に立っていて、自然が私を生かしも殺しもするのだと幼いながらに思っていた。
大人になって、東京に住むようになって、そんなことを忘れていた。街はレプリカ。
どこにでも人がいて、隙間がぜんぜんない。
空は狭くて、こわい森もない。
時々自分の人生が偽物なんじゃないかと考えてしまう。